統合報告

社外取締役インタビュー

取締役会の議論を深め、中長期的な企業価値向上へ

株式会社ニューラル
代表取締役CEO

夫馬 賢治

(ファシリテーター)

ZOZO社外取締役
(監査等委員)

宇都宮 純子

ZOZO社外取締役

閑歳 孝子

ZOZOは、2023年度に監査等委員会設置会社に移行したほか、多様な専門知識や経験を持つ取締役を迎え、ガバナンス体制の強化を図っています。当社のサステナビリティアドバイザーも務める株式会社ニューラル代表取締役CEO 夫馬 賢治氏をファシリテーターとして迎え、ZOZO社外取締役 閑歳 孝子とZOZO社外取締役(監査等委員) 宇都宮 純子から、ZOZOのガバナンスの現状と課題、中長期的な企業価値向上に向けた展望について聞きました。

形式的な取締役会を脱却し、実質的な議論へ

夫馬 : 企業の持続的な成長とステークホルダーからの信頼獲得のために、コーポレートガバナンス・コードは、取締役会の機能を最大限に発揮することを求めています。近年ZOZOはガバナンス体制を強化していますが、取締役会ではどのような変化がありましたか。

宇都宮 : 私の本業は弁護士で、2012年からZOZOの社外監査役(非常勤)を務め、第 25回定時株主総会(23年6月開催)にて、社外取締役(監査等委員)に就任しました。

以前の取締役会は、戦略を深く議論するというよりは、どちらかというと形式的な決議が中心でした。現在は、社内取締役も社外取締役も、それぞれの立場から自由に意見を発言する風通しの良い会議体になっています。

社外取締役は、投資家や社会の視点も持ち合わせていなければならない立場にあります。ZOZOには長く関わらせてもらっているので、私自身会社やスタッフには愛着がありますが、だからこそ、厳しい意見も言わなければなりません。
弁護士として、法的リスクを回避することは当然ですが、社内の議論だけでは見落としてしまうような点に気付き、会社に提言していくことが、私の役割だと認識しています。

閑歳 : 私は2023年6月に社外取締役に就任して1年が経ちましたが、とても活発な議論がおこなわれていると感じています。

私自身は、エンジニアや経営者としての経験に基づき、サービス自体の質、なぜそのサービスを立ち上げるのか、最終的にユーザーにどんなインパクトを与えられるのか、といった観点から客観的な視点を心掛けて発言しています。

毎月の定時取締役会の後は、取締役同士で1時間ほど企業運営について話し合う「戦略検討会」が設けられています。議題は社外取締役も提案することができ、ガバナンスやマーケティング、SDGsなど幅広い内容について話し合っています。

私はもともと「ZOZOTOWN」のヘビーユーザーでしたので、以前からサービスに込められたZOZOの強いこだわりやカルチャーを感じていました。社外取締役就任後は、その思いをより強くしています。

一方で、既存のサービスや組織を愛し過ぎていると、イノベーションを起こすことが難しくなり、縮小してしまう可能性もあります。変化を起こすためにも、多様な視点と活発な議論が不可欠であり、私も積極的に発言するように心掛けています。

夫馬 : 企業が持続的に成長するうえでも、イノベーションは重要です。私自身は、サステナビリティアドバイザーとしてZOZOに関わっていますが、複数の企業で社外取締役にも就いています。ひと昔前の取締役会といえば、議題を淡々とこなして、最後は挙手で承認して終わり、というのが一般的でした。形式的な場ではなく、活発な意見交換を通じて、より良い経営判断につなげようという意志を感じます。

取締役の多様性が組織を強くする

夫馬: コーポレートガバナンス・コードは、取締役会の責務を果たすうえでも、多様性の確保を求めています。ZOZOは、2023年6月の株主総会で、女性取締役1名と女性社外取締役4名が就任し、取締役に占める女性比率が45.5%(11名中5名)になりました。

宇都宮: 取締役会が多様化したことで、いろいろな意見が出るようになり、議論が深まったと感じています。

例えば、これまで私自身、数少ない女性役員であるという自覚もあったので、専門外ながらサービスについて1ユーザーとして意見することもありましたが、取締役会において女性が少ないことがどれほどの影響があるのか、私自身も具体的に認識できていませんでした。しかし、実際に取締役会に女性が増えると、同じような意見を持っている方が複数いることが分かり、単なる一個人の意見ではなく、女性視点での気付きとして反映される場面が出てきたように感じています。

閑歳: 私自身も女性であることを特別意識していませんでしたが、 「ZOZOTOWN」ユーザーの7割が女性であることを考えると、サービスを開発したり、経営方針を決めたりする場に女性がいるのは当然だと思います。

コスメが好きな人は、買う前に「いろいろ試して決めたい」「色を比べたい」と思っています。そうした心理や行動を理解することは、サービス開発やマーケティングにおいても重要です。

宇都宮: ジェンダーの多様性だけでなく、Eコマースやマーケティング、サステナビリティなど、多様なスキルや知見を持った取締役が増えたことも、組織やガバナンスを強化していると思います。

私は法律の専門家として発言する一方で、以前は専門外のことについては、どこまで踏み込んで発言すべきか迷うこともありました。現在は各分野に精通した取締役がいるので、より具体的で建設的な議論ができるようになっています。

取締役会の実効性評価を基に改善

夫馬: ガバナンスを強化するうえでの課題はありますか。取締役会や経営会議に参加するうえで、社内情報へのアクセスは十分でしょうか。

閑歳: 就任当初は、オンボーディング(新しく組織に入るメンバーに対する教育)が少なかったので、基礎知識や社内用語など、分からないこともありました。

現在は改善されて、オンボーディングに加え、執行側の会議にも呼んでもらったり、物流拠点「ZOZOBASE」の見学ツアーにも参加させてもらったり、ZOZOについて深く知る機会がたくさんあります。

社内のコミュニケーションツールを閲覧できるのですが、社内SNS上で社員が日頃の感謝の気持ちを送り合うチャンネルなどもあり、褒め合う文化や自由に話し合える社風を実感しています。

課題があるとすれば、取締役会で議論した内容が最終的にどうなっているのか、進捗を共有する機会があると、さらに良いのではないでしょうか。

宇都宮: 取締役会の実効性評価アンケートやヒアリングでは、私が伝えた内容について、きちんと改善されているのが分かります。

例えば、以前、「ガバナンス体制や投資家の視点など、定点観測すべきテーマがあるのではないか」と提案したことがあります。その後、取締役が集まる場でそうした議題が設けられ、より実質的な議論ができるようになりました。

夫馬: ZOZOは、2019年にLINEヤフー株式会社(旧Zホールディングス株式会社)の連結子会社になりましたが、上場を維持しています。親子上場においては、大株主と少数株主の利益相反などの懸念もあります。

宇都宮: 少数株主の保護に関して、ZOZOは「親会社グループとの間の取引の公正性維持に関する規程」を定め、そのルールに則って運用をおこなっています。

この買収は結果的に、相乗効果を生み出していると思います。ZOZOは2004年に「ZOZOTOWN」の運営を開始し、自分たちの力で事業を大きくしてきました。いわゆる「叩き上げ」の組織です。

一方で、LINEヤフー株式会社のグループ企業になり、当時Zホールディングス株式会社の代表であり、経営経験およびインターネットサービス業界での幅広い経験を有する川邊 健太郎さん(※1)、新規事業の立ち上げや企業買収の経験が豊富な小澤 隆生さん(※2)という強力なお二人がZOZOの取締役に就任し、同グループとの健全な信頼関係を築けたことは、経営面でのメリットも大きかったと思います。

(※1)2023年6月:株式会社ZOZO 取締役退任
(※2)2024年6月:株式会社ZOZO 取締役退任

常識を打ち破り、イノベーションを

夫馬: ZOZOが持続的に成長していくためには、中長期的な視点で経営していくことがますます重要になってきていると思います。

宇都宮: 先日ZOZOの未来について議論する場があったのですが、社内取締役3人の中でも、描く未来像は重なる部分はありつつも全く同じものではありませんでした。ファッション業界はどうなるのか、それを取り巻く社会がどうなっていくのか、さらなる議論を重ねていく必要がありそうですが、社外取締役の多様な知見も入れながら、ZOZOの将来像を示すことも取締役会の役割だと思っています。

閑歳: ZOZOの未来を考えると、ユーザー目線で物事を考える私としては、ユーザーとの対話を重視して欲しいです。

東京・表参道にある超パーソナルスタイリングサービス「niaulab by ZOZO」のように、ユーザーの声を直接聞ける拠点はありますが、ZOZOのユーザーは、都市部だけでなく、地方にも多くいます。また、手ごろな価格帯の商品が売れているというデータもあります。

メインのユーザーが普段の生活で何に困っているのか、どのようなタイムスケジュールで生活し、何を基準に商品を選んでいるのかなど、生活全体をもっと深く理解する必要があると感じています。

また、役員の報酬制度に関しては、業績連動だけではなく、ESG要素が組み込まれているので、中長期的な視点で経営しやすいのではないかと考えています。

夫馬: 企業にとって重要な長期テーマを俯瞰して見定めていく作業として「マテリアリティ(重要課題)の特定」があります。足元の経営課題だけでなく、長期的展望に立つことで、イノベーションに経営資源を大胆に投下できるようになります。

閑歳: 既存ビジネスの改善を繰り返すだけでは、大きな成長にはつながりません。どこかで、その枠を飛び越える必要があります。

例えば、LINEヤフー株式会社は、多額の投資をおこない、電子マネー事業に参入し、キャッシュレス決済「PayPay」をスタートしました。その決断が、今のLINEヤフー株式会社の成長を支えています。

ZOZOも、これまでの常識を打ち破るような、破壊的なイノベーションを起こしていく必要があるのではないでしょうか。

ZOZOには優秀な従業員がたくさんいます。彼らが、自分の才能や情熱を注ぎ込めるような、新しい事業を創出できるような環境や仕組みづくりに、貢献していきたいです。

夫馬: これまで、攻めのガバナンスを中心に議論してきましたが、リスク管理やコンプライアンスといった守りのガバナンスも重要です。リスクを取ってチャレンジしていく姿勢は大切ですが、同時に、致命的なリスクを洗い出し、対応策を検討しておくことも必要ですね。

宇都宮: リスク管理やコンプライアンスについては、取締役会でも定期的に議論されています。議題になっていなくても、質問すれば、きちんと回答がありますし、対応状況についても、常に共有してもらっています。

また、監査等委員会でも細かい点までチェックしています。新たなメンバーの参画で、新たな視点での指摘も増えましたし、体制はより強化されていると感じています。

閑歳: ZOZOはユーザー数も多いので、サイバー攻撃などの標的になりやすいという点は、常に意識しておく必要があります。経営会議では、システム障害に関するKPIなども確認していますし、危機管理意識は高いと感じています。

夫馬: お二人の話を聞いて、ZOZOの取締役会や経営会議では、オープンなディスカッションがおこなわれているという印象を受けました。社外取締役からの意見や指摘を真摯に受け止め、改善するスピード感もあります。

今後、ZOZOがさらに成長していくためには、社外取締役を含め、中長期的な視点を持って、議論を深めることが重要です。多くのステークホルダーが、ZOZOの今後に大きな期待を寄せています。既存事業の成長はもちろんですが、ZOZOがこれから先、どんな未来を描こうとしているのか、見せて欲しいですね。

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