統合報告

ステークホルダーインタビュー

制度、風土、上司、そして私自身。
企業のDE&I実践で女性活躍の実現を手繰り寄せる

株式会社ポーラ 代表取締役社長

及川 美紀

株式会社ZOZO 執行役員
人自本部 ・ CI本部

清水 俊明

「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」をサステナビリティステートメントに掲げ、ファッションを楽しみ続けられる社会の実現を目指す「ZOZO」。その手段として取り組んでいる重点取り組みの一つが、「ファッションに関わるすべての人のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)推進」です。

DE&Iを推進するにあたり、ジェンダー・ギャップ指数において先進国で最下位レベル(※1)にある日本は、女性活躍の後押しが必須だといえます。

性差における構造的な差別が存在してしまっている現状を変えていくために、企業が果たすべき責任とは何か——。

ZOZO執行役員 清水 俊明と、女性エンパワーメントを社内外で強力に推進する株式会社ポーラ代表取締役社長 及川 美紀氏の対談を通じて、すべての人が可能性を発揮できる社会のつくり方について考えていきます。

(※1)世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2023」p.11.TABLE1.1,The Global Gender Gap Index 2023 rankings

なぜ日本は、いまだ“女性活躍後進国”なのか

— 日本でも「女性活躍」を推進する動きが活発になっていますが、現状をどのように捉えていますか。

及川 : 以前と比べて状況は改善されていますが、まだまだだと思います。事実、世界経済フォーラムが発表した2023年の「ジェンダー ・ ギャップ指数」では、日本の総合順位は146か国中125位でした。

清水 : まだ私が高校生だった頃、カナダにホームステイをしたことがあります。当時の日本は、男性が家事や育児に積極的に参加することが当たり前ではない時代です。しかし、ステイ先では、夫婦で当たり前に家事をしていました。先進諸国では、性別によって役割を分ける考え方が、すでに前時代的なものになっていたのです。

あれからかなり長い時間が経ちましたが、日本にはまだ性別による構造的な差別が存在しています。差別の撤廃を推し進める動きがあるのは望ましいことですが、十分なペースかといえば、そうではありません。

— 先進諸国と比較し、日本のジェンダー ・ ギャップ指数が高くなっているのには、どのような原因があるのでしょうか。

及川 : 様々な原因が挙げられますが、突き詰めていえば、「女性が自分自身の能力を把握し、それを最大限に発揮して働くという素地が社会に存在しない」ことが課題だと思っています。

日本にはずっと、「男性は仕事で、女性は家庭」という風潮が存在しました。以前と状況は変わりつつありますが、女性活躍に対する社会の後押しはいまだ不十分です。それゆえ私たちは、刷り込まれてきた価値観から抜け出せずにいます。

当社でも「無意識の思い込み」が原因で、女性の活躍機会を奪ってしまいそうになったことがありました。海外出張に行くメンバーを決めていた際に、「育休からの復帰直後だから難しいだろう」という思い込みから、参加してしかるべき社員たちに声をかけていなかったのです。

その事実を知り、「参加するか否かを決めるのは本人だから、声をかけるべきだ」と伝えたところ、本人たちは二つ返事で「参加します」と言ってくれました。悪気はなく、むしろ配慮だったと思いますが、これも女性の機会を奪うものです。

清水 : そうしたことが続くと、活躍の機会を、女性自身が手放してしまうことにもつながると思います。実際に当社でも、「男性よりも前に出るなんて……」と自分自身をストレートに表現できず、不必要な忖度をしているケースがよくあります。しかし、それでは可能性にふたをするようになってしまいますよね。


女性活躍の推進は、努力目標ではなく責任

— 女性の活躍が遅れている日本の現状を変えるには、どのようなアクションが必要だとお考えですか。

及川 : 国に対して女性活躍推進を求め続けなければいけないのは言わずもがなですが、企業も自分たちの意思で変化していくべきだと思います。

産育休の制度をつくる、リモートワークやフレックスなど働きやすい環境と制度を整える、性別を問わず個性を発揮できる風土をつくる——。やろうと思えば、すぐにその一歩を踏み出せるじゃないですか。

清水 : おっしゃる通り、女性活躍を推進することは、やはり企業の責任だと思います。ZOZOでも、2030年までに女性の上級管理職比率を30%にしようと、本格的なアクションを実施し始めました。女性活躍のハードルになっていることは何なのか、どのような制度や環境が必要なのかを検討しながら、例えば管理職向けの研修を開催しています。

及川 : 私たちの脳裏にある“無意識”の配慮 ・ 忖度をなくしていくためにも、研修を実施することは重要です。スキルアップの機会を提供することも必要でしょう。

ただ、日本の女性は忙しい。日本における女性の無償労働の時間は、男性の5.5倍(※2)です。つまり、働きながら子どもを育てる女性たちは、インプットする時間すらまともに確保できないんです。

この事実を企業のトップが理解していれば、就業時間内にスキルアップの機会を得られる場を設けることもできるはず。そうした機会を提供しながら、実践したアクションをケーススタディとして社会に還元し、もっと多くの企業が取り組みに真摯になれるよう環境を変えていかなければいけないと思っています。

(※2)男女共同参画白書 令和2年版 コラム1 生活時間の国際比較

すべての人が可能性を発揮できる社会を、私たちの手から

— 「ポーラ」さんは、かなり早い段階から、女性活躍に力を入れていらっしゃいます。過去を振り返り、効果的だった施策や制度はありますか?

及川 : 制度ではありませんが、「ポーラ」には、有志による14のワーキンググループ(2023年現在)が存在しています。例えば「産育応援プロジェクト」というものがあり、そこでは男女問わず育休時に申請できる手当や制度の利用方法、育休中や復帰後の生活や両立についてなどを、子育て経験を持つ社員が、これから子育てを考える社員同士と交流しながら 教えてくれるんです。

女性活躍を推進するにあたり、トップダウンの意思決定は必須です。ただ、それだけでは不十分であり、ボトムアップの改革があることで、初めてうまくいくものだと思っています。

提案を受け、それを承認し、全社で実現していく。そんな循環をつくることができれば、女性はもちろん、すべての人が働きやすい組織になっていけるはずです。

— 制度を充実させるだけでなく、文化をつくっていかなければ、DE&Iを実現することはできないんですね。

及川 : やはり、空気感が大切なんです。例えば、産休から復帰した社員は、どうしてもブランクが発生するので、仕事のパフォーマンスが落ちてしまうこともあるでしょう。でも、それをネガティブなことだと捉えず、むしろ新しい状況での挑戦を後押しする空気があれば、きっと持てる限りの実力を発揮してくれるはずです。

清水 : 人間には100人100通りの個性がありますし、それはライフステージによっても変化するはず。これをいかに尊重し、発揮してもらえるかが、企業の強さそのものだと思います。

それを実現するためには、「もっと周りの人を頼ってもいいんだよ」ということを、繰り返し伝えていかなければいけない。いつか自分も助けてあげる側に回る日が来るのだから、サポートが必要なタイミングが来たら、思い切って頼ればいいんです。そうすると、頼られたメンバーにも成長の機会が与えられます。誰かが不利益を被ることは、実はそれほどないんです。

難しいことは考えず、「困ったときは、いつでも頼れる」という当たり前をつくることが、最初の一歩になるのかもしれません。

及川 : 現時点ではマイノリティなことを、ちゃんとマジョリティにしていかなければいけませんね。困ったときに頼るのは当たり前、女性の管理職は当たり前、男性の育休は当たり前……と事例をつくり、それを発信していけば、企業の責任を果たせるはずです。

清水 : 及川さんのお話をお聞きして、「まだまだやるべきことがある」と強く再認識できました。女性活躍のハードルとなっていることを正しく認識して、制度や文化をつくり、悩みやノウハウを共有し合いながら、すべての人が可能性を発揮できる社会づくりを進めていきましょう。

統合報告トップページへ