統合報告

ステークホルダーインタビュー

「経営に『愛』と『物語』が求められる」
山口周氏と考える、企業のサステナビリティ経営

株式会社ZOZO 代表取締役社長兼CEO

澤田 宏太郎

株式会社ライプニッツ代表

山口 周

「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」をサステナビリティステートメントに掲げ、ファッションを楽しみ続けられる社会の実現を目指す「ZOZO」。

創業時から受け継がれる独自のカルチャーに加え、ファッションとテクノロジーを原資に、サステナブルな未来の構築に取り組んでいます。

しかし、日本は世界の先進諸国と比較し、企業によるサステナビリティへの貢献が十分といえる状態にはありません。サステナビリティ経営の重要性が叫ばれる現代において、企業はどのような姿勢で社会課題に向き合っていくべきなのか——。

ZOZO代表取締役社長兼CEO 澤田 宏太郎と、独立研究者 ・ 著作家であり、株式会社ライプニッツ代表 山口 周氏の対談を通じて、変化する時代を生き抜く企業の在り方について考えていきます。

“What”ではなく“Why”で語るサステナビリティ

— 世界各国で持続可能な社会の確立に向けた動きが加速しています。
先進的な企業では、どのような取り組みが実践されているのでしょうか。

山口 : すべての企業がその限りではないですが、倫理的な観点だけでなく、自社の利益を確保する目的で、サステナビリティへの貢献にコミットしている会社が多くあります。

例えば、オランダのアムステルダムに本社を置く世界的な金融グループ ・ ING Groupは、本社の天井のほとんどがガラス張りです。陽の光が降り注ぐ昼間の時間に働くのだから、電気を使う必要はないだろうと、日光で建物の明るさを確保する設計になっています。

いったいなぜ、そこまでして銀行がサステナビリティへの貢献にコミットしているのかと不思議に思うかもしれません。しかし、答えはシンプルで、彼らは非常に広大な土地を持っており、土地を担保にしたビジネスを展開しているからです。

オランダは国土の4分の1が海抜0m以下であり、気候変動が深刻化すると土地が水没してしまいます。つまり、「これ以上、海面水位を上げない」ことが、彼らにとって最も重要な経営課題なのです。

自社の利益創出とサステナビリティへの貢献をうまく接続できているのは、多くの日本企業が見習うべき点だと感じています。

ZOZOさんは「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」というサステナビリティステートメントを掲げられていますが、具体的にどのような活動をされているのでしょうか。

澤田 : 「サステナブルなファッションを選択できる顧客体験の提供」「廃棄ゼロを目指す受注生産プラットフォームの構築」「ファッションに関わるすべての人のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進」「持続可能な地域づくりへの貢献」という4つの重点取り組みを掲げ、実践しています。

議論に議論を重ねて取り組みを定めましたが、その際には自社の利益についても勘案しました。目先の利益を優先し、売上至上主義的な経営をすることもできます。しかし、それでは企業が果たすべき責任を放棄することになりますし、長い目で見れば自分たちの首を絞めることになります。

株主や投資家に対してリターンを提示しながら、なおかつ未来の利益を確保し、サステナブルな社会に貢献する手段として導き出したのが、この4つの重点取り組みでした。

「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」というサステナビリティステートメントにおいて、最もこだわったのが「つなぐ」という言葉です。株主や投資家にとっての利益、自社の利益、持続可能な地球の実現、これらを様々なステークホルダーと共につないでいくんだ、という想いを込めています。

山口 : 「親亀こけたら皆こける」とよく言うように、やはり地球がダメになってしまったら、自社の事業も存続しないわけです。50年、100年と企業を存続させようとしたら企業は当然サステナビリティに取り組まなければいけません。機関投資家もそういった企業でないと投資しなくなってきていますし、また、ダイバーシティの割合の高い企業ほど企業価値が高いことが統計的にもわかっています。

澤田 : それでも、日本ではまだまだ短期的な結果を求められることが多いです。10年後の話をしていても、「それで、今期はどうするの?」となってしまう。経営者として、ビジネスとサステナビリティとの関連性をしっかり語っていくことの重要性を実感しています。

山口 : 海外の投資家は「日本企業の取り組みは評価できるが、Whatの説明ばかりでWhyがない」と言います。サステナビリティに貢献する活動はしているが、なぜそれに注力しているのかを説明できていないということです。

その点、ZOZOさんが向き合う4つの重点取り組みは事業との関連性も高く、いずれにもナラティブ(物語)がある。日本企業の中では、非常に珍しいタイプだと感じています。

経営とサステナビリティへの貢献は別物ではない

— SDGsには17の目標があります。これらすべてに貢献するのは難しいと考えられますが、企業にはどのような姿勢が求められるのでしょうか。

山口 : 「エシカルだからやっています」と中途半端な取り組みをするのと、「自社の利益につながるから」と特定の項目にコミットするのであれば、おそらく後者の方がインパクトが出るはず。その意味で、特定の領域であれコミットすることには、大きな意味があると思います。

ちなみにZOZOさんは、4つの重点取り組みの中で、どのアクションに最も注力されているのでしょうか。

澤田 : いずれも重要な取り組みだと認識していますが、「廃棄ゼロを目指す受注生産プラットフォームの構築」が戦略の最優先事項です。アパレル業界には商品の大量生産 ・ 大量廃棄の問題があるのですが、受注生産の商品なら、売れ残りの廃棄をゼロにすることが可能になります。

また、ZOZOには個人の体型に合わせた商品を製作する技術があるため、ECサイト経由でも最適なサイズの商品が手に入る。受注生産のため、お届けには10日間程度の時間がかかってしまいますが、誰にとっても不利益のない仕組みだと考えており、これを早急に完成形へと持っていきたいと考えています。

山口 : 体型に合った商品が、環境に負担をかけにくい製法でつくれると知ったら「少しくらい時間がかかっても購入したい」と考える消費者はたくさんいるでしょうね。

澤田 : 今後、より受注生産の取り組みが加速することで、経営とサステナビリティへの貢献が一体となった「本当の意味でのサステナビリティ経営」が実現できるはずなので、私たちもその未来に期待しているんです。

働く意味を持った組織は強くなる

— 経営にサステナビリティの観点が求められる時代において、企業の成長を後押ししていく人材には、どのような能力が求められるとお考えですか。

山口 : そもそも能力とひと口に言っても、「保有能力」と「発揮能力」の二つが存在します。一般的には「保有能力」の高い人材が優秀とされがちですが、それを発揮できなければ意味がないので、中長期の視点で考えれば発揮能力の高い人材が企業の成長を後押ししていくはずです。

どうすれば「発揮能力」を高められるのかというと、「仕事に愛情を持っているかや、仕事に意味を感じられているか」が鍵だと思っています。自分の仕事に意味を感じられていて、適切な成長を遂げるためのアサインメントがされていれば、発揮できる能力は何倍にも増加しますから。

つまり、優秀な組織とは、端的に言えば「エンゲージメントが高い組織」です。ファッションにはファンダメンタルな喜びがあると思いますが、それを信じているスタッフが多いのであれば、ZOZOさんは今後も成長していくはずです。

澤田 : ZOZOにはファッションを愛するスタッフがたくさんいますが、実は、中にはそれほど自分の服装に関心がないスタッフもいるんです。ただ、仕事に対するエンゲージメントは、ファッションに高い関心があるか否かによってそれほど変わっていません。

というのも、ZOZOのスタッフは、会社が目指すゴールや「ZOZOらしさ」に共感し、賛同してくれているのです。ですから、新しい挑戦に臆することなく、次々に意欲的なチャレンジができている。山口さんの言葉を借りれば「発揮能力」の高いスタッフが多いのだと思います。

山口 : つまり、自分の仕事に意味を感じられており、なおかつ多様性のある組織になっているわけですね。

持続可能な経営をするにあたっては、組織の多様性も非常に重要な要素ですが、ここにはよくある勘違いがあります。バックグラウンドが多様な人間が集まるだけでは、ただバラバラの組織になってしまうということです。

ものすごく強い求心力がなければ、多様性はあっても優秀な組織にはなり得ません。ZOZOさんであればおそらく、澤田さんがおっしゃった「ZOZOらしさ」が「強い求心力」の機能を担っている気がします。ぜひ、詳しく教えてください。

澤田 : 「ZOZOらしさ」を「ソウゾウのナナメウエ」「日々進歩」「愛」という3つの言葉で定義しています。アッと驚くような発想を持つこと、不器用でも日々歩みを進めること、仲間も含めたステークホルダー全員や、運営しているサービスや販売している商品への愛を持つこと、これらをもって、ZOZOらしい人だと定義しています。

山口 : 「愛」というキーワードは、経営の勘所を押さえていると感じます。というのも、製品やサービスによる差別化が難しい現代においては、市場調査よりも愛のほうがよっぽど重要だと感じるからです。

これは例え話ですが、意中の相手にアプローチする際に、相手が好むものばかりを用意しても、面白みがないし、うまくいかないような気がしませんか。もちろんそうした機会があってもいいと思いますが、むしろ「素敵なレストランがあるから、一緒に行かない?」と誘うほうがスマートで、相手の世界が豊かになると私は思います。

市場調査をして、顧客が「欲しい」と言ったものだけを提供するのは、意中の相手にアンケート用紙を渡してデートプランを決めるようなものです。「顧客思考」なんて言いながら、まったくもって思考していないと。世間を見渡すと、愛がない企業は、やはり弱くなってしまったと感じます。

澤田 : サステナビリティへの取り組みも、愛があるからこそ本腰を入れられるものですよね。企業の存続のためでもありますが、自分の子どもや孫たちの世代に素晴らしい社会を残そうと考えたら、行動を起こさないという選択はしませんから。

サステナビリティは「やれることからやってみよう」

— 課題が山積するファッション業界において、山口さんがZOZOに期待する点について教えてください。

山口 : ファッション業界について言えば、きっと多くの日本人は、どれだけ大量の衣類が廃棄されているかを知らないと思います。だから、欲しい商品を、少しでも安く、できるだけ早く手に入れようとしてしまう。でも、この状態が続けば、市場も地球環境もメチャクチャになってしまいますよね。

こうした現状を変えるには、ときには企業が生活者を導いていかなければいけません。企業が何を語るかで、地球環境は良い方向にも、悪い方向にも進んでいきます。業界内で大きなパワーを持っているZOZOさんのような企業には、これからも市場に対して適切なメッセージを投げかけてほしいです。

澤田 : ありがとうございます。昨年、ZOZOTOWNに「elove by ZOZO(エラブ バイ ゾゾ)」というページを開設し、ブランド様のサステナブルな取り組みや商品、世界のサステナビリティ潮流を紹介するなど、手探りながらメッセージングも開始しています。地道な活動ではありますが、お客様の背中を押す一助になれば嬉しいですね。

山口 : 「地道なことから」でいいと思います。「やれることからやってみよう」というのが、サステナビリティの基本です。無茶な目標を掲げて、継続できないのなら本末転倒ですから。

とはいえ、1,100万人以上のユーザーを抱える「ZOZOTOWN」から発せられるメッセージのインパクトは計り知れません。これから日本のサステナビリティ経営をリードしていくことを心から期待し、応援しています。

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